選好判断

複数の対象から好きなものを一つ選択するとき、我々はその対象に関する知識、経験、好みなどを勘案し判断します。しかし、その判断は、対象の性質とは直接関係のない要因、たとえば対象を見る時間や、見る順番、他者の視線などによって「無意識のうちに」変化することが知られています。つまり、自分のココロと相談して選択しているつもりでも、そのココロは無意識のうちに偶然的に生じうる状況や環境の影響を受けているのです。 本研究室では、選好判断に影響を与える要因を調査し、さらにそのメカニズムを明らかにしようとしています。

単純接触効果

事前に繰り返し接触することで、接触した対象の好意度が上昇することを「単純接触効果」と言います。 単純接触効果の研究としては1968年のZajoncの論文[1]が有名です。 Zajoncは、意味が分からない外国語の単語を実験参加者に事前に繰り返し(0~25回)見せた後に、 各単語の印象(良い-悪い)を7段階評価させたところ、数多く見せた単語ほど良い評価が得られたことを示しました。 単純接触効果はこれまで多くの研究者によって検証が行われ、視覚以外にも味覚や嗅覚でも効果が生じることや、閾下(サブリミナル:意識にのぼらない)の短時間の刺激でも効果が生じることが示されています[2][3]。

サンプリング動作と選好判断

普段、我々は複数の対象を見比べて一つを選ぶことがよくあります。このような場合にも単純接触効果は影響するのでしょうか?図1はディスプレイに2つの選択肢(AとB)を異なる時間交互に提示して、好きなほうを選ばせる実験を示しています。


図1 2つの選択肢(AとB)を異なる時間交互に提示して選好判断させる実験

Shimojoらは2003年の論文[4]で、このような場合には、より長い時間提示された「A」のほうが「B」よりも高い確率で選ばれることを示しました。つまり、事前に見た時間や回数だけではなく、選好判断中に見る時間によっても選好が変化することが分かります。図1にて「A」と「B」をそれぞれディスプレイ(四角い枠)の左側と右側に示していることに注意してください。この場合、画面を切り替える毎に視線は左右に交互に動きます。Shimojoらは「A」と「B」をどちらも画面中央に提示した場合には選択確率に有意差が生じなかったことから、視線の動きが選好判断に寄与したと考察しています。

それでは、画面に「A」と「B」を並べて同時に示した場合にはどうなるでしょうか?


図2 2つの選択肢(AとB)を同時に提示した場合(a)の視線の動き(b)

視線はサッカード(跳躍性眼球運動)と呼ばれる高速な動きで図2(右)に示すように「A」と「B」を交互に移動します。この図の場合は、まず初めに「A」を見て、その後、「B」「A]「B」と続き、最後に「A」を見てどちらが好きかを決定しています(実験参加者は好きなほうのボタンを押します)。このとき、刺激が提示されてから選好判断にいたるまで、「A」を3回、「B」を2回見ており、さらに注視時間(対象を見つめる時間)を合計すると、「A」のほうが「B」に比べて長い時間見ていることが分かります。もし、単純接触効果が選好判断に影響しているのであれば、「A」のほうが「B」に比べて選ばれやすくなっているはずです。

複数の研究はこのような場合、最後に見たほうを選択する確率が他方を選択する確率よりも有意に高いことを示しています。しかし、選択の偏り(最後に見たほうを選びやすい傾向)が単純接触効果によるものとは限りません。二つの選択肢を見る回数と時間は選好判断を行うタイミングによって決まるものであり、実験参加者が自由に決めていることなので、選好判断の原因であるとは限らないからです。Shimojoらの研究[3]では、好きなほうを選択する課題において、この選択の偏りが生じた一方で、嫌いなほうを選択する課題や客観的基準(どちらが丸いか)による選択課題では、この選択の偏りは小さかったことを示しています。この結果は選択の偏りと選好判断との関連性を示しています。一方で、選好判断課題と客観的基準の選択課題の間で選択の偏りに大きな差が生じなかったとの報告例もあります。選択の偏りの原因が何か?また、自由に選択対象を見比べる(サンプリングする)場合にも単純接触効果が働くのか?以上を明らかにするために研究を行っています。本研究室ではこれまでの研究で、視覚の選好判断[4]だけでなく、触覚の選好判断でも同様の傾向が生じることを明らかにしました[5]。


図3 2枚のハンカチを触り比べて好きなほうを選択する実験の様子

親近性と新奇性

ヒトは見慣れたもの(親近なもの)を好む一方で、新しいもの(新奇なもの)を好むこともあります。相反するこの二つの性質を直接的に比較する実験をParkら[6]は行いました。


図4 親近性と新奇性が選好に与える影響を調べる実験(Aは毎試行提示して,もう片方は毎回新しいものを提示する)

図4に示すように、彼らは二つの対象から好きなほうを選択する課題を繰り返し行い、片方は毎回同じもの(A)、もう片方は毎回新しいもの(B,C,D,E,)を提示しました。そして、この実験の結果、対象が顔である場合には毎回提示されるAが選択される確率が試行を繰り返す毎に徐々に高くなり、対象が風景である場合には、逆に新しく提示される対象(B,C,D,E)を選択する確率が徐々に高くなりました。また、幾何学図形を用いた場合にはどちらへの偏りも生じませんでした。このように対象の種類によって、親近なものが好まれる場合と新奇なものが好まれる場合に分かれることをParkらは示しました。

何故、対象によってこのような違いが生じたのでしょうか?ヒトは他人に警戒心をいだきます。繰り返し見せられることで警戒心が薄れて親近な顔を好むようになったのでしょうか?ヒトは新しいものに好奇心をいだきます。好奇心が新奇な風景を好む結果につながったのでしょうか?それとも、対象そのものの性質ではなく、対象の見た目の特徴(画像特徴)が影響したのでしょうか?顔はどの顔も似通った画像特徴(形など)を持っているのに対して、風景は場所により画像特徴が大きく変化します。このような画像特徴の違いが選好に影響を与えた可能性もあります。本研究室では、現在、親近性選好と新奇性選好が生じる原因を研究しています。

また、視覚以外の選好に関しても研究を行っています。飲み物の美味しさに関して図4と同様の実験(二つの飲み物を飲み比べる実験)を行ったところ、試みた8種類の飲料のうち、コーヒー微糖、カフェオレ、ブドウジュース、オレンジジュース、リンゴジュース、緑茶において親近性選好が生じることが分かりました[7]。一方、ブラックコーヒーとスポーツドリンクではどちらの傾向も生じず、新奇性選好が生じる飲み物はありませんでした。単純接触効果の研究では、飲料の糖度が好意度変化に関係することが知られています。しかし、本実験の結果では糖分がふくまれない緑茶で親近性選好が生じ、逆に糖度の高いスポーツドリンクでは親近性選好が生じていません。飲料の種類によって親近性選好が異なる原因を現在研究しています。

視線手がかり効果

ヒトは他者の視線に注意を向けることによって、危険を察知したり、興味を共有したりします。Baylissらは他者の視線の先にある物体がより好まれるようになることを示しました[8]。


図5 他者の視線が選好に与える影響を調べる実験

図5に示すように顔の両側に対象(AとB)を提示して好きなほうを選択してもらうと、画面中央の顔の視線が向いている側の対象(この場合はB)を選択する確率が高くなることを彼らは示しました。本研究室では、視線を向ける人物や、選好を行う人の性別によって、好意度がどのように変化するかを研究しています。

参考文献

[1] Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9(2), 1–27. doi:10.1037/h0025848
[2] Bornstein, R. F. (1989). Exposure and affect: Overview and meta-analysis of research, 1968–1987. Psychological Bulletin, 106, 265–289. doi: 10.1037/0033-2909.106.2.265
[3] 宮本聡介・太田信夫編著 (2008). 単純接触効果研究の最前線. 北大路書房. ISBN 9784762826016
[4] Takashi Mitsuda, Mackenzie G. Glaholt (2014). Gaze bias during visual preference judgments: effects of stimulus category and decision instructions. Visual Cognition, Vol.22, No. 1, pp.11-29. doi:10.1080/13506285.2014.881447
[5] Takashi Mitsuda, Yuichi Yoshioka (2015). Taken last, selected first: the sampling bias is also present in the haptic domain. Attention, Perception, & Psychophysics, Vol.77, No.3, pp.941-947. doi:10.3758/s13414-014-0803-3
[6] Park, J., Shimojo, E., & Shimojo, S. (2010). Roles of familiarity and novelty in visual preference judgments are segregated across object categories. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 107(33), 14552-14555. doi: 10.1073/pnas.1004374107
[7] 満田 隆, 小松 相太 (2014). 飲料の選好判断における親近性の影響. 日本味と匂学会誌, Vol.21, No.3, pp.281-284.
[8] Bayliss, A. P., Paul, M. A., Cannon, P. R., & Tipper, S. P. (2006). Gaze cuing and affective judgments of objects: I like what you look at. Psychonomic Bulletin & Review, 13, 1061–1066. doi: 10.3758/BF03213926